イベント報告
グアム島ウマタック村とマゼラン・ヨシダ
■直感

これは「第2回ダンズ・カップ」(2006年12月)のアフター・レースでの出来事である。 実は、我々KFCは繁華街のタモン地区やアガニャ地区はあまり好きではない。 時間があれば、島南部の昔のたたずまいを残す静かな村を訪れることにしている。 この度もそうした。

メリッソ桟橋へのドライブの途中、ウマタック村を通過した。 その時、車からチラッと質素なハンバーガー・スタンドのような、 イート・イン・コーナーのようなモノが車窓を通して視界の片隅に入った。

「ピッ」と頭の中に何か面白そうな気配を感じた。いつもの「直感」である。 これと言って理由がある訳ではない。

■マゼラン・ヨシダとの出会い

それで、引き返して、道路を隔てたビーチ沿いの小さな駐車場に車を停め、 スーパーマーケットに隣接した粗末なハンバーガー・スタンドのような小屋のテラスに腰をおろした。

そこでメニューを見ていると、そこの店主であるひとりのおじさんが話し掛けてきた。 「これがおいしいよ」「日本人?」「僕は、チャモロ人だけど、お母さんが日本人とチャモロ人とのハーフなんだ。だから僕はクォーターなんだ」 「名前はヨシダ」等々。このおじさんとは初めてなのに、昔からの知り合いのようにペラペラしゃべりかけてくる。

そんなこんなで、吉田さんおすすめのハンバーガーとスパイシーチキンを注文した。 「ドリンクをくれ」というと「ドリンクは隣のスーパーで買ってくれ」という。 この店とスーパーのオーナーが同じなのだ。食べ物の味は美味しく、ボリュームもある。 何よりも、オープンテラスで、海を見ながらゆっくりでき、値段は超安いのである。 全ての料理が5ドル前後ときている。 それに、目の前はU字型をした美しいウマタック湾、見上げれば、正面の丘の上にソレダット砦が見える。 この素晴らしい景色とリラックスな雰囲気を含めて5ドルとは破格に安い。 気に入った。ここは「KFCお気に入り処」の一つに加えることにした。

この吉田さんはオカマちゃんではないが、 ちょっと女っぽい、 やわらかい物腰の所為か、すっかり話し込んで友達になった。 チャモロお決まりの、次のステップであるBBQ(バーベキュー)に誘ってきた。 BBQ好きの我々としては、断る理由などどこにもない。有難く受けることにした。 次回来た時には、目の前にあるウマタック湾のビーチで美味いローカルBBQにありつけることになった。

チャモロは元々親日派の民族だが、その上、吉田さんには日本人の血が4分の1入っている。 だから、彼は日本人には特別の思い入れがあると話してくれた。 それなのに、悲しいかな、彼の店には滅多に日本人観光客が立寄ってくれないという。 そんな折、たまたま我々が立ち寄ったのである。だから、彼は嬉しかったのである。 そして、歓迎してくれたのである。

確かに、普通の日本人観光客なら、この雰囲気の店には立ち寄らないだろう。 何と言っても、ローカル色が強すぎる。

我々にナイスにしようと思ったのか、BGMが欲しいと思ったのか、 吉田さんはマイケル・ジャクソンの大ファンだそうで、お気に入りのマイケルのCDを聞かせてくれた。

そうこうしている内に、隣のスーパーから店番のおばちゃんたち2人も出てきて、話の輪に加わった。 皆、人の良さそうなおばちゃんたちだ。このおばちゃんの一人がオーナーだそうだ。きっと家族経営なんだろう。

彼は25年前に日本に行ったこともあり、東京タワーと富士山が大のお気に入りと話す。 次回来る時は、東京タワーと富士山の写真をプレゼントするというと非常に喜んでくれた。

すっかり打ち解けたので、吉田さんは、自分の自慢料理のひとつである“パラペーニョ・ペッパーのチーズ揚げ”もご馳走してくれた。 青唐辛子を縦にカットしてチーズを挟み、パン粉を付けてフライしたもの。 衣の中のチーズがとろけて、メチャクチャ熱いが、とても美味しかった。 2時間ほど遊ばせて貰った。楽しいひと時だった。この度も「直感」は的中した。

■マゼラン・ランディング

店を後にして、“そういえば、吉田さんのフルネームを聞いていなかった・・・”と思い、 スーパーの屋号である「マゼランズ・ランディング」から「マゼラン」を拝借して、 取り合えず、勝手に“マゼラン吉田”と名づけた。 この屋号の「マゼランズ・ランディング」とはマゼラン上陸地点という意味である。

ウマタック村は“1521年、最初にマゼランがグアム島を発見し、上陸した村”として有名である。 そして、グアムの最初の首都が置かれた場所でもある。 当時、グアムの中心地は、ここウマタック村で、かつては、栄えており、ホテルもあったという。 グアムでは最も由緒ある村なのである。

今は、その面影はあまりないが、静かでのんびりした美しい村である。 その当時の面影を僅かに残しているのが、ウマタック湾を見下ろす小高い丘に建つ、 スペイン人が建設した首都防衛の為のソレダッド砦である。

また、ウマタック湾のビーチはタモン湾や他の南の島のビーチとはちょっと違う。 海は透明に澄んで、綺麗だが、小石にケイ素を含んでいるため、ビーチが黒い色をしている。 決して汚染されている訳ではない。そして、砂ではなく、グアム島唯一の小石のビーチなのである。 ゴミもなくクリーンだが、小石の“黒いビーチ”なのである。 グアムの人たちには、黒光する貴重な小石「エリエリ」が拾えるビーチとして人気が高い。 次回行った時は、ウマタック湾で泳いでみることにした。

■Come! Come! Just eat!

マゼラン吉田と別れた後、目の前のウマタック湾の小石のビーチに下りて行った。 ウマタック湾は典型的なU字型をしているため、普段、湾内は波のない穏やかな海となっている。 そのため、村の子供たちの絶好の遊び場なっている。

“ふっ”と顔をあげると、ビーチから20〜30m離れた場所に建つ建物のガレージに大勢の人が集まっていた。 その片隅から煙が立ち込めていたので“なんだろう!? と見ていると、“手招き!?”をしている人がいる。 “知り合いでもないだろうし、何だろう!?”“我々のことかな…!?”まわりを見てもやっぱり誰もいない。我々のことだ。

近づいてみると、チャモロ人の村人が集まってBBQ(バーベキュー)をしていた。 聞くと、その建物はウマタック村のメイヤーズ・オフィス(村役場)で、メイヤー(村長)もおり、 メイヤーの息子のバースデイのBBQパーティをやっていたのだ。

「Come! Come! Just Eat! (こっちに来て、ちょっと食べたら」」と愛想よくBBQを勧めてくれた。 マゼラン吉田のところで食事をした直後だったので、そこではちょっとしか食べることができなかった。 残念!でも、やっぱりチャモロの作るBBQは美味い!と思った。

ロタでは通りすがりの知らない人にBBQを勧めるのは珍しいことではないが、“まさか、グアムに来てまでも・・・?”と驚いた。 と同時に、「なんで我々を呼んでくれたの?」と聞くと、「だって、BBQを見ていたから、食べたいのかな〜と思って」と、 巨漢を揺すりながら、人懐っこく言った。

我々は煙が出ていたので、ただ何となくそっちを見ていただけなのに、 チャモロ・アイでは、我々の目線までをしっかりと捉えていたのである。 そして、我々がBBQに弱い人間であることまでも見透かされたのかな・・、 それとも、同じチャモロ人の匂いを感じたのかな?グアムでも、“やっぱり恐るべし、チャモロ・アイ”と思った。

■恐るべし、チャモロ・アイ!

さらにその後、チャモロの視力の凄さを私達が再認識させられた出来事があった。 彼らにお礼を告げて、車で、ウマタック湾を見下ろす丘の上にあるソレダット砦に行った。

そこから見下ろすと、ウマタック村のメイヤーズ・オフィスが小さく見えた。 もちろん我々には建物や人の姿が見えるだけで、人の姿かたちや顔までは判別できない。 そこにいる人間は米粒のように小さいからだ。 顔は見えていないけど、取り合えず、手を振ってみることにした。

すると、何と!そこ(BBQパーティ会場)にいたほとんど全員が手を振り返してきたのである。 “やっぱり、手を振ったのが我々だってことが、はっきり、しっかり見えているんだ!” 本当に、本当に恐るべし、チャモロ・アイである。