北マリアナ諸島に生えている樹木で一番よく目にするのはこの「タガンタガン」の木である。
								これは非常に繁殖力の強い木で、原産地は中米カリブ海諸島である。
								木と云っても潅木で幹の太さは腕くらい、背丈は3〜4mくらいにしか成長しない。
								では、なぜ、遥かカリブ海のものが北マリアナ諸島にこれほど多く繁殖しているかと云うと、
								60年ほど前の太平洋戦争末期に、米軍の海上からの集中砲火で草木が焼けて、岩山だけになってしまったテニアン島に、
								早急に緑を回復するために、同時に、戦争の悲惨な爪痕(死体等々)を隠すために、米軍が飛行機で上空から繁殖力の強い「タガンタガン」
								の種を蒔いたのである。
								すなわち、この時点で、テニアンに昔から自生していた植物は絶滅してしまったということである。
								それに取って代ったのが、外来植物のタガンタガンである。
								
								
								
								米軍としては、気候がよく似ているカリブ海のものならテニアンでも生えてくるだろうと考えたのである。
								それは「ビンゴ」であった。
								現在、テニアン上空から、緑の絨毯のように一面に広がって見えるのがこの「タガンタガン」の樹海である。
								そして、その種が風や海流に乗って運ばれたりして、今ではサイパンやロタやグアムなど近隣の島々でも広く繁殖して、
								これらの島々に昔から生息していたかのようである。
								問題なのは「タガンタガン」の木は繁殖力が強すぎて、北マリアナ諸島に自生している植物(バナナ、パパイヤ、タロイモなど農作物も
								含む)を淘汰してしまうことである。
								さらに、この木には食べることができる実(フルーツ)が生らないので、島民にとっては余り役に立つ木とは考えていない。
								「絹さや」のような形をした殻の堅い豆のような実が生るだけである。
								もちろん、食べることはできない。
								
								
								では、島民達はこの木をどのように日常生活に利用しているかと云うと、幹がまっすぐで堅く、その太さが揃っている性質を利用して、
								祭り用の小屋を作ったり、ベンチを作ったりする。
								しかも、道具はノコギリと金づちと釘だけである。
								これがまた、上手に、しかも短時間で作ってしまうのである。
								こういうことに関しては、チャモロ人の才能にはいつも驚かされる。
								他には、幹を薪に利用したり、BBQ用の炭を作ったりする。
								テニアンでは「絹さや」のような殻と実の部分を採って、それに糸を通して歓迎用の首飾り(現地では「レイ」と呼ぶ)にする。
								これはテニアン独特の習慣で、他の島ではタガンタガンのレイはない。
								
								しかし、不思議なことに、これほど繁殖力が強い木なのに、台風などで海水の飛沫が直接降り掛かると、その部分は白く変色して枯れて
								しまうのである。だから、海の近くのタガンタガンは幹の上部が枯れているものが多い。
								意外にも、塩水には弱いのである。
								テニアン島北部の潮吹き海岸付近ではその現象
								(木の上半分が白く枯れてしまう)が数多く見られる。
								その後、島民達が暮らすことを許された島南部では、バナナ、椰子の木、パパイヤ、
								マンゴーなどのトロピカルフルーツや火炎樹、ブーゲンビリア、ハイビスカスなどの花も徐々に植えられ、サンホセ村辺りは南の島ら
								しく植生が豊かになってきた。
								しかし、米軍の管理地である島中部から北部一帯にかけては、未だに絨毯のようにタガンタガンの木で覆われている。
								
								
								
								マリアナ諸島の各家庭にはホットペッパー(唐辛子)をペースト状にしたものが常備してある。
								唐辛子に塩、生姜、ニンニクを少し加えて磨り潰すのである。
								その味は、各々の家庭によって微妙に異なり、日本で言う「お袋の味」的存在である。
								材料となる唐辛子は小粒(米粒の2倍程度の大きさ)のものを使うのが一般的で、日本にあるものと比べると100倍は辛い。
								超激辛である。
								そのまま口に入れると、辛いという感覚を通り越して痛みを覚える。
								
								
								でも、島民達はこれを平気で食べるのである。
								最も一般的な食べ方は「フィナデニ」という醤油ベースのソース(タレ)を作る時に入れる使い方である。
								このフィナデニ・ソースは醤油に、このホットペッパーのペーストと玉ネギ、ニンニク、味の素少々、それにカラマンシー、
								(沖縄ではシークァサーと云う)をたっぷり絞って加えるのである。
								フィナデニはBBQや刺身などにもよく合う。
								また、白いご飯にそのまま掛けて食べても美味い。
								ポイントはカラマンシーを使う点にある。
								日本で云う黄色い普通のレモンでは全く美味くない。
								カラマンシーは日本のカボスのような外見をしているが、その味は全く違う。
								このレモンはロタではロタ・レモン、テニアンではテニアン・レモン、サイパンではサイパン・レモンと呼ぶ人もいる。
								
また、テニアンでは、ロタやサイパンと違って、ペースト状のもの以外に、唐辛子を乾燥させて粉末状に加工したり(日本の一味に
								似ているが激辛)、
								ペースト状のものに酢を少し加えてドロドロの状態(タバスコのようなもの)にしたりして使うこともする。
								これらは全て家庭の味であって、レストランでは見掛けることは殆どない。
								スーパーマーケットなどにも売っているので、お土産にはお薦めである。